麻酔の歴史 麻酔科主任医長 葛川 洋介(こんにちわ2024年2月号)
麻酔の歴史
今回は麻酔の歴史についてほんの一部ですが皆様と見ていきたいと思います。
今日において手術をする際、麻酔をすることが当たり前になっており、手術中は痛みのない事が当然のように考えられています。しかしそれはかつてそうではなく患者様が痛みを我慢しながら手術を受ける事が当たり前という時代がありました。こうした中,日本において華岡(はなおか)青(せい)洲(しゅう)は 1804年に世界にさきがけて経口全身麻酔薬の「通仙散(つうせんさん)」による全身麻酔下での60歳の女性の乳癌摘出手術に成功しました。これは全身麻酔で行われた手術の最初の確実な記録と見なされています。その後、多くの科学的発見により、現在の手術麻酔の主流である便宜性の良い吸入麻酔薬が開発されました。ただ、最初に使用されたエーテルという吸入麻酔薬は引火しやすく、手術室火災のリスクがありました。手術中に自分の身体が燃える・手術室や病院が火事になる可能性がある事は現在では思いもつかないリスクだと思います。その後さらに開発が進み、1980年代から1990年代にかけて現在の標準であるセボフルランやデスフルランという比較的安全な吸入麻酔薬が使用されるようになりました。
麻酔科としての歴史は1952年に東京大学に初めて麻酔科が設立された事が始まりです。それ以前は当然病院に麻酔科・麻酔科医というものは存在せず、手術中に多くの患者様の命が危険にさらされていました。現在では麻酔科は手術室のみではなく、集中治療室・救急・緩和医療・ペインクリニック等多くの分野で必要とされるまでになりました。
個人的には、麻酔の歴史はまだまだ浅く、今後数年でさらに進歩し、より良くなっていく事が期待できると思います。現在では昔に比べ、かなり安全に手術麻酔が受けられる状況になりましたが、100年後にはさらに誰もが予想が出来ない程の進歩があるかもしれません。
麻酔科 主任医長 葛川 洋介