往古来今(おうこらいこん) 整形外科 部長 竹田治彦(こんにちわ2024年12月号)
往古来今とは、過去から未来まで連綿と続く時間の流れのことです。「昭和は(平成も)遠くなりにけり。」ここで時代と共に変化したことを、少し私見を織り込んでお話しします。
さて日本の高齢化と骨折についてです。日本人の平均寿命は1990年から現在に至る30数年間に約5、6歳延びて、現在は男性81.6歳、女性87.7歳です。また日本の高齢化率は世界の上位に位置し、人口の多さから見れば際立っています。折しもこの超高齢社会の中で整形外科の疾患では骨脆弱性(こつぜいじゃくせい)骨折、特に大腿骨(だいたいこつ)近位部(きんいぶ)骨折が増加しています。同骨折患者の多くは手術を余儀なくされて、仮に手術を行っても日常生活動作の低下を招くことが稀ではありません。その事から今こそ受傷しないために弥が上にも骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防と転倒の対策が喫緊(きっきん)の課題です。
話変わって、交通外傷と脊髄(せきずい)損傷についてです。交通死亡事故の件数は1996年頃から現在はその約1/3となり、加えて高度交通外傷の全体も減少しています。その理由に交通安全の普及徹底と車両安全性の進歩が挙げられます。一方で脊髄損傷患者数の統計に目を転ずると過去は20歳台と60歳台に頂点を有する二峰性(にほうせい)を示したのに対し、現在は70歳が中央値の一峰性です。高齢者の受傷は主に転倒が原因です。高度交通外傷が減少した反面で、ここでも転倒が問題です。
斯くも社会の移り変わりに伴い、医療の中も様々に変化しています。「行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず(方丈記より)」来し方行く末に医療の流転を感じます。
整形外科部長 竹田治彦